くされたるくさ ほたるとなる
芒種-腐草為蛍

新暦6月10日 から6月14日
公開日:2017年6月11日

 11日からは「くされたるくさ ほたるとなる」の候です。腐った草が蛍となる、というひと目では意味がわかりにくい名前です。これは古代中国において、腐った草が変化して蛍になると考えられていたことを由来としています。蛍の淡い光は幻想的、神秘的なものです。これを見た古の人々は様々な想像を巡らしたのでしょうね。
 蛍はホタル科の甲虫の総称です。体長5~20ミリメートルほどで、体は長楕円形で体色は黒・赤・黄などが組み合わされた色です。日本に生息する40種ほどのうち約10種は腹部が発光・明滅します。ゲンジボタル・ヘイケボタルは特に有名で、幼虫は清流にすみ、6月頃に羽化します。
 蛍は古くから文学によく登場し、蛍を死者の霊魂とする伝説も数多く残されています。
 そろそろ梅雨に入るこの時季は、蛍の出現の季節です。特に雨上がりの、湿度が高い夜に活発に活動するそうです。夕涼みがてら、蛍狩りなどいかがでしょう。

茶の趣向・心配り

掛物

【雨後青山青転青(うごのせいざん あおうたたあおし)】

 新緑の美しい山にさーっと雨が降ります。その雨が上がったあとには、山の緑がよりいっそう鮮やかに見えます。「青転青」というのは、青がいっそう青々として鮮やかだということです。  
 この時季の雨はなんとなく憂うつなものですが、雨上がりには大気も澄み、美しい景色がみられますね。

茶碗

【蛍手茶碗】

 磁器質の素地に透かし彫りをして素焼後、半透明で粘りのある釉原料などを溶かして充填します。それを更に焼き上げると、透かし彫りに埋め込んだ部分の半透明の模様が光を通して浮き出します。ぽつぽつとした透かしの柔らかな光を、蛍になぞらえてのネーミングです。諸説ありますが、中国明代におこった製法とされることが多いです。
 光を直接的に器のなかに取り入れた手法であり、穴のあけ方次第でユニークな景色にもなります。その面白さから、現代作にも頻繁に見受けられる製法です。美しく、また見た目に涼やかでこの季節にあった茶碗ですね。

 この時季、「蛍狩」「蛍火」「蛍籠」「蛍舟」など、蛍にちなんだ言葉がいくつかあります。
 暗闇のなか幻想的な光を放つ蛍に、古来より人々は多くの幻想を重ね見てきました。草が枯れて蛍になり光るのだという人もいれば、馬の血が蛍になるのだという伝承もあります。蛍火から人の魂を想起させる文学作品も存在します。
 名物の唐物茶入と春慶瓢箪茶入に、また高麗茶碗の一種の蕎麦茶碗にも“蛍”の銘が存在します。夏の茶の取り合わせには多く用いられる銘です。

茶花、季節の植物

【額紫陽花(がくあじさい)】

 ユキノシタ科の落葉低木です。高さ2mほどになり、神奈川県や伊豆半島など暖地の海岸近くに自生しています。葉は対生し、卵形です。夏、枝先に紫や青色または白色の花びら状の萼(がく)が、中央部に群れ咲く小花を取り囲むように開きます。その様子を額縁に見立てて額紫陽花の名前がついたそうです。なお、紫陽花はこの額紫陽花を原種として日本で育成された園芸品です。
 額紫陽花は花期が長く、またどのような花入でも映えるので、茶花としては重宝される花の一つです。夏らしい趣向として、上手に取り入れたい茶花ですね。

季節のお菓子、食べ物

【紫陽花きんとん】【紫陽花餅】

 この時季は紫陽花をかたどった菓子に心惹かれる方が多いのではないでしょうか。雨にうたれて変化していく花の色をきんとんに仕立て、上に錦玉を散らして露に見立てた紫陽花きんとん、薄墨色の道明寺で白小豆のこし餡を包み、氷餅をまぶして花弁を濡らす雨を表現した紫陽花餅など、どれも梅雨の季節にふさわしい一品です。 

  ・氷餅(こおりもち)……餅を寒中にさらして凍らせて乾燥させた、和菓子用の素材

茶趣・行事ごと

【雨中の茶(うちゅうのちゃ)】

 梅雨の時季というのは、じめじめとしてうっとうしいものです。
 湿度が高く蒸し暑かったり、梅雨寒(つゆざむ)でひんやりと肌寒かったり、なかなか過ごしにくい日々ですが、その雨の風情を味わい、情緒豊かにひと時を過ごすのも茶の湯の心にかなうものでしょう。道具も熊川(こもがい)や雨漏(あまもり)茶碗をはじめ、紫陽花や五月雨などに寄せたものを揃えて、さりげなく楽しむのも一興なのでは。

【織部忌(おりべき)】

 古田織部(1543~1615)は信長、秀吉、家康に仕えた安土桃山時代の武将です。茶の湯を利休に学び、利休七哲の一人に数えられます。利休没後は独自の茶風を確立し、二代将軍徳川秀忠の茶の湯指南を務めました。大阪夏の陣で豊臣方への内通を疑われ慶長20(1615)年6月11日、72歳で自刃。織部流の祖です。
 藪内家では薮内剣仲(やぶのうちけんちゅう)が織部の妹を妻に迎えていることなどからその縁で、織部の遺徳を偲び毎年6月11日に菩提所の京都・興聖寺で家元による献茶式が行われます。

  ・藪内剣仲(1536~1627)……安土桃山時代の茶人。京都・薮内家初代。

全てのお便りの一覧へ
このお便りの先頭へ

このお稽古にしおりをつけました。
しおりのページでまとめて見れます。

残りのしおり数を増やすには?