つばめ いたる
清明-玄鳥至

新暦4月6日 から4月10日
公開日:2016年5月5日

 玄鳥(げんちょう)とは燕の別名。南から燕(つばめ)が渡ってくる頃を表しています。
 スズメ目ツバメ科の鳥で、全長 17㎝ほど。尾羽が長く、切れ込みの深い、いわゆる燕尾(えんび)状をしていて、燕尾服の語源ともなっています。冬を東南アジアで過ごした燕は春3、4月に日本に渡来し巣を作ります。古くから日本ではツバメは常盤(ときわ)の国を往来する縁起のよい鳥と考えられていました。また、燕が巣を掛けるとその家に幸せが訪れるという言い伝えもあり、人々に大切にかわいがられるようになりました。そのためでしょうか、かつては自然環境の中で営巣していた燕ですが、現在巣を掛けるのは家の軒先など、ほとんどが人工物だということです。
 毎年同じ時期にやってくる燕たちは、昔から日本人の季節感の大切な指標の一つでした。

茶の趣向・心配り

【菜の花】

 菜の花はアブラナの仲間の花の総称です。アブラナは種子から油が取れるので菜種(なたね)ともいいます。中国から渡来したとみられ、古くから栽培されてきましたが、現在、採油用に栽培されているのはセイヨウアブラナで別名蕓苔油菜(うんだいあぶらな)という品種です。切花用には縮緬白菜(ちりめんはくさい)の結球しないものを改良したものが多く栽培されています。
 のどかな春の日ざしを浴びて、あたり一面に菜の花の黄色いじゅうたんが広がる光景は、古くからなじみのある春の風物詩です。菜の花といえば与謝蕪村の「菜の花や月は東に日は西に」の名句が思い浮かび、のどかな気分に浸れます。
 また開花前のつぼみは食用にもなります。ビタミンCや鉄分、カルシウムなどが豊富に含まれていて、ほろ苦さ、香りを楽しむにはおひたしなどでいただきます。見ても食べても春を堪能できる花だといえるでしょう。

【透木釜(すきぎがま)】

 日増しに暖かくなってきたこの時季、釣釜にかわって透木釜が掛けられるようになります。透木釜は茶の湯釜の一種です。五徳を使わずに透木を当てて風炉や炉に掛ける釜のことをいい、扁平で羽のある平蜘蛛釜や達磨釜などが用いられます。
 ちなみに透木は敷木ともいわれ、釜と炉や風炉の間にはさむ拍子木のようなかたちをした木片のことをこのように呼びます。材質は朴、桐、桜、梅などです。
 陽気が暖かくなると、だんだん火の気は疎ましく感じられるため、少しでも客から火を見えなくし、遠ざけようという、亭主の心づかいのあらわれです。

 この時季には灌仏会(かんぶつえ)にちなんだ「仏生会(ぶっしょうえ)」「花祭」「花御堂(はなみどう)」「花供養」「甘茶」などの銘はいかがでしょう。 
 ところで茶道を嗜む方々でも、“甘茶”を飲む機会はあまりないのではないでしょうか。甘茶とはアジサイ属ユキノシタ科の植物を煎じたお茶、もしくはウリ科のつる性多年草であるアマチャヅルの葉を用いたお茶のことです。色は黄色く、砂糖よりも豊かな甘みをもっています。一方で茶葉を煎じているのにタンニンやカフェインなどは含んでおらず、カロリーもありません。抗アレルギー効果があるため薬局などでも取り扱われており、この時期のつらい花粉症対策にもなります。
 甘茶の茶葉に「御法楽」という御祈祷を神社で行った茶葉のみ、「天茶」の号を冠することが許されます。花祭りにはかかせないお茶です。

茶花、季節の植物

 この時季は、利休忌にちなんだ茶菓子はいかがでしょうか。

【菜花(さいか)きんとん】

 緑色のきんとんの上に、黄色のそぼろを散らしたもので、菜の花をかたどっています。茶の湯の菓子としては利休忌までは使わない習わしです。 

【朧饅頭(おぼろまんじゅう)】

 薄皮饅頭を蒸し上げて、すぐに上皮をむいた饅頭です。春の朧月にみたてた中の餡がうっすらと見えます。千家で利休忌に用いられるお菓子です。

【菜花糖(さいかとう)】

 福井県鯖江市、大黒屋が製造・販売する銘菓です。煎った餅米に柚子の風味の砂糖をまぶしたあられ菓子で、鯖江藩主のお気に入りだったとか。ほどよい甘さで、そのまま食べても、熱湯を注いでもおいしくいただけます。色合いも形も菜の花に似たかわいらしいお菓子ですので、振出しに入れて茶箱手前で用いるのもいいかもしれません。

【花水木(はなみずき)】

 ミズキ科の落葉小高木でアメリカ山法師(やまぼうし)と呼ぶこともあります。北アメリカ東部原産で、明治になって日本に輸入されました。特に明治の末に、日本からワシントンに贈られたソメイヨシノ の返礼として、大正初めにアメリカから日比谷公園に贈られたものが有名です。
 名前の花水木は、日本産の水木に葉が似ているため、別名のアメリカ山法師は山法師に花が似ているところからつけられました。かつては四花四葉ということで嫌われたそうですが、今では庭木としても栽培されています。
 茶花としては春には花、秋には色づいた葉と朱い実を用います。 

季節のお菓子、食べ物

【利休忌】

 侘び茶の大成者として知られる千利休が亡くなったのは天正19(1591)年2月28日でした。侘び茶とは茶の湯の一形式で、道具や調度の豪奢を排して、簡素静寂な境地を重んじます。村田珠光が始め、武野紹鴎(たけのじょうおう)を経て千利休が大成し、利休は千家流の開祖となっています。 利休は織田信長、豊臣秀吉に重用され絶大な権勢を誇りましたが、のちに秀吉により死を命じられ、自刃したのがこの日です。
 利休を偲ぶ利休忌は茶家最大の行事で、現在では新暦に直して3月に行われています。表千家では27日、裏千家と武者小路千家、薮内家では28日に催されます。また、三千家では毎月28日に交代で、利休の墓がある大徳寺聚光院で法要を行い、月釜を掛ける習いとなっています。
 利休忌には利休の画像または居士号を掛け、菜の花を供えます。炉には釣釜を掛け、台子飾りで家元が供茶します。なお、利休が自刃した際に菜の花が活けられていたという伝えから、利休忌までは茶席で菜の花は用いないのが一般的です。

【花筏(はないかだ)】

 見事に咲いた桜は、満開ののち散り始め、やがて吹雪のようにはらはらと静かに、かつ絶え間なく落ちてきます。「花筏」は水面に散って流れゆく桜の花びらを筏に見立てた茶菓子です。求肥で細長く丸太の形に作り、焼印で桜の花を散らしたものなどが一般的です。菓子器に盛り付けるときは、筏を組むように並べるとよいでしょう。 

茶趣・行事ごと

【白木蓮(はくもくれん)】

 モクレン科の落葉小高木です。中国中部原産で、古くから日本でも庭木として植えられてきました。葉は広い卵形で、葉に先立って早春、枝先に花が咲きます。大きい白色の六弁花で、とても良い香りがします。花弁とほぼ同じような形の白色のがくが3枚、外側に付いています。
 茶花としては、花が大きく派手目なので、つぼみのものを用いるのがよいかもしれません。

【大師会(だいしかい)】

 茶人益田鈍翁(ますだどんのう)が明治28(1895)年に入手した「弘法大師筆 崔子玉(さいしぎょく)座右銘」一巻を披露する茶会を、翌29年の弘法大師の祥月命日(3月21日)に東京・品川御殿山の自邸で開催したのが始まりです。
 鈍翁主催のこの茶会は大師会と名付けられ、以後毎年催されました。横浜・三渓園、東京・護国寺、畠山記念館などで行われ、昭和49年からは根津美術館を会場に例年4月5、6日に行われています。
 茶道具の名器が一堂に集まるので美術鑑賞の場としても人気があり、豪華な茶会として有名です。
  ・益田鈍翁(1848~1938)……三井物産を創立し三井財閥を築いた実業界の重鎮で、近代数寄者の代表者。明治初期、価値が暴落した美術工芸品を文化財保護の立場で収集するうちに、茶道具の名品を手に入れ、茶の湯にのめりこんだ。大師会を主宰し、メンバーの財界人が茶席に名品茶道具を飾り評判となり、茶の湯の隆盛に貢献した。

【西大寺大茶盛(さいだいじおおちゃもり)】

 4月第2土曜・日曜と10月第2日曜に、奈良の西大寺で鎌倉時代から続く、大茶碗を用いた茶会が開かれます。
 叡尊(えいそん)上人が正月の修正会の結願お礼として献茶し、その折に参拝の民衆にもお茶を振舞ったことに始まります。仏教では戒律によって酒を飲まないので、酒盛りに代わって「茶盛」と称されたということです。
 現在では、僧侶が直径30cm以上もある大茶碗にお茶を点て、参加者に振舞います。この大茶碗には、江戸末期に赤膚焼の名工・奥田木白(もくはく)が奉納した由縁によってか、赤膚焼の茶碗が用いられます。頭がすっぽり入ってしまうくらいの大茶碗で回し飲みする様子は、とても和やかな雰囲気に包まれます。

【灌仏会(かんぶつえ)】

 4月8日はお釈迦様の誕生日、灌仏会です。別名を花祭りといいます。仏教の祖・お釈迦様が誕生した時に、天から龍が飛来し、甘露をそそいで沐浴させた、という故事にちなんだ行事です。
 灌仏会の法要は全国の多くの寺で、宗派を問わずに行われます。参拝者は、色とりどりの花で飾られた花御堂に詣で、安置された誕生仏と呼ばれる小さな仏様に、ひしゃくで甘茶をそそぐのが習わしです。
 甘茶には無病息災の御利益があるといわれ、参拝者に振る舞われますので、頂いてみてはいかがでしょう。

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