6月になり夏の色味も強くなってきました。この頃にはかまきりが卵から生まれ出てきます。
かまきりの特徴はなんといってもあの大きな鎌型の前脚ですね。逆三角形の頭を巡らして獲物の昆虫を探し、狙いをさだめて鎌をふりかざします。その一瞬の技は、草むらのハンターそのものです。
夏に成虫へと育ったかまきりは、秋に草の茎や小枝、または人家の外壁などに卵囊(らんのう)を産みつけます。卵囊内の卵はそのまま越冬し、翌年5月ころに孵化して幼虫となります。かえったばかりの幼虫時から捕食性が強く、一生の間にたくさんの小昆虫を食べて成長します。特に田んぼの稲や畑の野菜には手を付けずに、バッタや青虫を獲ってくれるかまきりは、農家の人々には大切な益虫なのです。
茶の湯の世界では一足早く5月から夏を迎えています。風炉の茶では利休七則に「夏は涼しく」とあるように、涼やかな趣を大切にします。特に6月から8月の夏の茶席では「涼一味」の心遣いと演出がなによりのもてなしとなります。
梅雨時で、じめじめとした蒸し暑さを感じる6月には、昔から障子や襖を葦戸にかえたり畳の上に網代を敷いたりして、見た目にも清々しさを感じさせる心配りがなされてきました。茶席の道具にも例えば掛物に「山水有清音」など涼しそうな語句を用いたり、備前や信楽など焼き締めの花入れは水に濡らして肌をしっとりさせたり、と様々な工夫により「涼の茶」を演出します。
・利休七則……「茶は服のよきように、炭は湯の沸くように、夏は涼しく冬は暖かに、花は野にあるように、刻限は早めに、降らずとも雨の用意、相客に心せよ」。この言葉は、千利休がある弟子から「茶の湯とはどのようなものですか」とたずねられたときの答え。
6月10日は時の記念日です。時間を尊重、厳守し、生活の改善、合理化を進めることを目的に1920年(大正9)設定されました。671年4月25日(太陽暦の6月10日)に天智天皇が初めて漏刻(ろうこく)を実用に供した故事にちなみます。天智天皇を祀(まつ)る滋賀県大津市の近江(おうみ)神宮では、毎年この日に漏刻祭が行われます。
・漏刻……中国伝来の水時計
かつて宮中で夏に氷を使用するため、冬の間に池にはった天然の氷を切り取り、穴室(
あなむろ)に貯蔵しました。それを氷室と呼びます。旧暦の6月1日の宮中では、氷室の氷を朝廷に献上するという儀式が平安時代から続いていました。
この故事にならって作られる菓子があります。葛まんじゅうの中に、氷に見立てた赤い三角形の羊羹を入れたもので、他に中に餡を入れたものなどもあります。見るからに涼しげな、美しい菓子です。葛菓子は冷やしてから用います。
また同銘で、純白のスリコハクで氷を割ったような形をしたお干菓子も存在します。
かつてまだ冷凍庫などが存在しなかった時代、夏に氷を口にすることは最高の贅沢のひとつでした。氷室を冠する菓子は、どれも見目で氷への憧れを表現しています。
さくらんぼのことです。実桜(みざくら)ともいいます。バラ科サクラ属の落葉小高木で、晩春、葉より先に白い花をつけ、6月ごろに球形で紅色の果実がなります。中国の原産で、日本へは明治初期に渡来したそうです。
赤くて小さなハートの形、ほんのりとした甘酸っぱさをもつさくらんぼは、初恋の味にたとえられますね。国産の佐藤錦(さとうにしき)は、やや黄色がかったオレンジ色で適度な酸味が人気です。店頭に出回る時期はほぼ6~7月に限られるため、もっとも季節感に富む果物として尊ばれます。最近ではチェリーパイなどのお菓子にも利用される濃い赤紫色のアメリカンチェリーの流通量も増えてきました。こちらは甘みが強いのが特徴です。
さくらんぼの主成分は糖質で、ほかにカリウム、リンなどのミネラルとビタミン類を含みます。量的には多くはありませんが、まんべんなく含んでいるため、疲労回復や美肌づくりに役立ちます。
キキョウ科の多年草です。日本各地の山野に自生していますが、北海道や本州にとくに多く、高さ30~80㎝ほどになります。長卵形の葉が互生し、6、7月ごろに白または淡紅紫色の釣鐘形の花を下向きに開きます。名前の由来は、子供たちが花に蛍を入れて遊んだからといわれています。ほかに提灯花(ちょうちんばな)、燈籠花(とうろうばな)、釣鐘草(つりがねそう)といった別名がありますが、どれもその花の形から出た俗称とのことです。地方によっては狐の提灯と呼ぶところもあるとか。
栽培も簡単で花もよく咲くことから、茶花として重宝されています。ほかの花と混ぜて、籠花入に活けるとよく映えます。
「清流無間断、碧樹不曽凋」(せいりゅうかんだんなく、へきじゅかつてしぼまず)と対句になっています。谷川を流れる清流は休むことなく流れ続け、青々とした常緑樹の葉はいつもその色を変えずに緑をたたえている、という意味です。 また、命をもつものはすべからく流動しており、尊いものは永く伝えられるといった意味も持っています。
ひとつの物事を長く続けることの大切さを思わせると同時に、夏の彩りを感じさせる掛物です。
流れる水は、涼やかさを演出する代表的な情景です。暑さがうっとうしくなってくるこの頃には、客人にひときわ爽やかな心持ちを愉しんでいただきたいものです。流れる水を思わせる銘としては「清流」「岩清水」「苔清水」「真清流」など。もしくは「さざ波」「銀波」などもよいでしょう。