暖かい春の東風が吹き始め、湖や川に張った氷が融けだす頃のことをいいます。古来より中国や日本では東風は春の代表とみられ、春の風が軟らかなことから「こち」(こは小、ちは風の古語)とよばれたそうです。立春を迎えたとはいえまだまだ寒さは厳しい時季ですが、古の人々は風向きの変化一つにも春の訪れを感じとっていたのですね。
「こち」で私たちに馴染みなのは菅原道真(すがわらのみちざね)の歌でしょうか。平安時代の歌人で政治家でもあった道真が、政敵によって大宰府へ左遷されることになり、京の都を去る時に詠んだ歌です。
東風(こち)吹かば 匂いおこせよ 梅の花 あるじなしとて 春な忘れそ (『太平記』)
馬上杯に似た台付きの茶碗です。高台に初午の狐にちなんだ宝珠の透かしや絵があるところから、初午のお茶に好んで用いられてきました。楽茶碗に多くみられます。
・馬上杯……杯の一種。高台が高く、そこを握って飲むもの。
ほかに、この時季の茶碗には絵馬の絵、宝珠の絵、鈴の絵など初午に縁の茶碗などはいかがでしょう。
赤々と燃えた炉の上に一片の雪が舞い落ちていきます。落ちた瞬間、雪は溶けて消えてしまいます。人間の命もまたこの雪のようにはかないものです。しかし、このはかない一瞬の命こそが、何物にもかえがたい尊い存在でもあるのです。
また、燃える炉の火の赤と雪の白、そして火の熱さと雪の冷たさ、その両者の対比が色彩的にも感覚的にも伝わってくる、美しく味わい深い句です。出典:『碧巌録』
この時季は節分が過ぎ初午を迎える頃です。それにちなんだかわいらしいお菓子があります。
寒のころにとれる鰤のことをいいます。この時季の鰤は厳寒の日本海の荒波にもまれ、しっかり脂がのって味は格別です。北陸では寒鰤漁の頃に鳴る雷を「鰤起こし」と呼ぶように、寒い季節の代表の魚として親しまれています。
また、鰤は成長につれて呼び名がかわる出世魚のため、関西を中心に新年のお膳には欠かせない魚となっています。
2月に初めて迎える午の日を初午とい、稲荷神社の年初めのお祭りとして定着しています。お稲荷さんのお使いは白狐とか。その狐の顔のお干菓子もいいですね。
この時季の菓子の銘には「絵馬」「ねじり棒」「稲荷山」などもあります。
笑う門には福が来る、といいます。お多福とは福を呼ぶ縁起物です。そのお多福をかたどったお菓子がいろいろあります。たとえば、香ばしく炒った大豆を挽いて糖蜜で固めた豆らくがんなどいかがでしょう。見ているだけで笑みがこぼれてきます。
2月に入って最初の午の日を初午といい古くからお稲荷さんのお祭りとして親しまれています。稲荷は稲生(いねなり)の意味で、稲を生育させる農業の神様として信仰されてきました。この日には全国各地に3万余あるといわれる稲荷神社では五穀豊穣、商売繁盛などを祈ってお祭りが行われます。
中でも総本宮である京都の伏見稲荷大社では、2月最初の午の日に宇迦之御魂(うがのみたま)が降臨したといういわれがあり、初午の縁日が盛大に開かれます。境内には「正一位稲荷大明神」と書かれた大きな赤い幟(のぼり)が立てられ、例年大変なにぎわいとなります。
雪の季節に露地に降る雪、積もった雪、その雪景色の美を愛でるのが雪見の茶です。雪が降るか降らないかはお天気次第ですから、雪見の茶は前もって約束しておくことなく、にわかに催されるものです。あまり気負うことなく、雪の風情をゆっくり楽しむのがいいのでしょう。雪に寄せた道具はいろいろあるので、それらを愛でるのも楽しみの一つです。
静かに降り積もる雪の気配を感じながら、茶室で暖かいもてなしを受ける、まさに極上のひと時ですね。