にわとり はじめてとやにつく
大寒-鶏始乳

新暦1月31日 から2月4日
公開日:2017年1月30日

 一年中で最も寒さが厳しい大寒の時期も、ようやく終わりに近づいてきました。三寒四温の言葉のように、寒さと暖かさを繰り返しながらも日は次第に長くなり、少しづつ春の足音が感じられるようになってきましたね。
 鶏始乳の「乳」は「産む」の意味です。「鶏が春の気配を感じて卵を産み始める頃」のこと。鶏の自然な産卵期は春から夏までです。古来より家禽となっていた鶏は、日の出と共に時の声をあげ、人間に新たな一日の始まりを知らせてくれる身近な存在でした。その鶏が、いち早く春の到来をも教えてくれたのです。

茶の趣向・心配り

掛物

【紅白梅図(こうはくばいず)】

 寒中のこの時期、まだまだ寒さにふるえることが多い日々ですが、春を先取りした梅の絵を見るとほっこりと心あたたまります。縁起のよい紅白梅の花が、茶席に一足早く春を招き入れているようです。

茶入

 1月31日、正月の末日は晦日正月、晦日宵などとも呼ばれます。年越しそばをこの日に食べたり、団子を作って家の戸口に挿す晦日団子の習慣があったりと、様々な形で正月を締めくくる風習が残っている地方もあるようです。

【文琳(ぶんりん)】

 そんな頃に用いたい茶入の一つに「文琳」があります。文琳は丸形の茶入です。文琳とは林檎の異名で、その名のとおり林檎によく似た形状をしています。唐物茶入の中でも茄子と並んで一番高い位に位置づけられるものですので、正月の締めくくりにふさわしい茶入ともいえるのではないでしょうか。

【万代屋釜(もずやがま)】

 桃山時代の茶匠で利休の娘婿にあたる万代屋宋安(もずやそうあん)が所持していたことから名前のついた釜です。口は輪口や繰口で、肩がやや張り気味の形状で鬼面鐶付(きめんかんつき)です。肩や腰に二本の筋が入り、その間に擂座(るいざ)があるのが特徴です。本歌は利休が辻与次郎につくらせ万代屋宋安に贈ったものとされており、京都の薮内家に伝来しています。
  ・万代屋宋安(?~1594)……堺の茶人。万代屋宗二の子で、千利休の女婿。利休門下の中でも特に秀でていたとされている。豊臣秀吉の茶頭のひとりであり、御伽衆を務めた。

茶碗

【伊羅保(いらぼ)】

 高麗茶碗(こうらいぢゃわん)の一種です。多くは江戸時代の初期に日本側からの注文によって作られたものと言われています。鉄分を多く含んだ褐色で砂混じりの土を使い、その手触りがいらいら(ざらざら)しているところから日本でこの名がつけられたということです。たいてい口縁にベベラといわれる土切れの部分があるのが特徴です。

【曙(あけぼの)】

 明けほのかという意味です。夜明けの空が明るんできた時のことを言います。「暁」「東雲」「あさぼらけ」など、古語の中には明け方を意味する言葉がたくさんありますが、中でも曙は一年の初めの時期、立春を前に春の夜明けを心待ちする、この季節によくあった銘といえるのではないでしょうか。

 春はあけぼの やうやうしろくなりゆく山際 すこし明かりて むらさきだちたる雲の細くたなびきたる(清少納言『枕草子』)

 他に天候・気象にまつわるものには「彩雲」「祥雲」「瑞雲」「慶雲」などもあります。いずれも、おめでたいことが起きる前兆を示す雲として喜ばれます。その雲は五彩を放ち、甘露の雨を降らすとか。見つけたらちょっぴり幸せな気持ちになりそうですね。

茶花、季節の植物

【寒菊(かんぎく)】

 寒くなり花が少なく寂しい季節に、色鮮やかな花を咲かせてくれます。目にする機会が多いのは黄色い花弁のものなのではないでしょうか。近畿地方以西の里山に自生しており、寒さに強い緑の葉は、霜に会うと赤くつややかに紅葉し、黄色と赤のコントラストは一面の冬景色の中で輝いて見えます。花期は12月から1月で、花涸れの時期になにかと重宝する花です。

 寒菊の雪をはらふも別かな (室生犀星)
(『室生犀星全集 第八巻』新潮社1967年)(『魚眠洞発句集』武蔵野書院)

季節のお菓子、食べ物

【未開紅(みかいこう)】

 京都・末富の生菓子です。日が伸びてようやく春めいて来たかと思うと、冷たい雨で真冬に逆戻り。そんなこの時期に、春を心待ちする気持ちを、大きくふくらんだ梅のつぼみで表現しています。未開紅は八重咲の梅の種類で、つぼみのうちから紅いのが特徴です。紅白二色のこなしで漉し餡を包んでいます。

【蓮根(れんこん)】

 蓮根はハスの地下茎が肥大した物で、食用に栽培されています。原産地は中国もしくはインド。日本では奈良時代に蓮根の栽培が始まったものの当時の在来種は収穫量が少なく、本格的に栽培されるようになったのは、新たに中国種を導入した明治初期以降とのことです。輪切りにすると穴が沢山空いていることから「先を見通す」ことに通じ縁起が良いとされ、正月のおせち料理には定番の煮物や酢バスとして登場します。旬は10月から3月までで、「蓮根(はすね)掘る」は冬の季語です。

茶趣・行事ごと

【節分】

 節分には季節を分けるという意味があり、昔は立春、立夏、立秋、立冬の前日が全て節分でした。室町時代以降、一年の始まりにあたる春の節分が重要視され、今日では節分といえば立春前日の事を指すようになりました。古来より季節の変わり目には時空の隙間から悪鬼が現れるといわれ、その鬼を退治するため子供たちは「鬼は外、福は内」の掛け声と一緒に枡に入れた大豆をまき散らします。発芽し元気に成長していく豆は、生命の源として強い霊力を持つと考えられていたため、豆まきにより冬を追い払い、春を呼び寄せるという意味もあったようです。

【節分釜(せつぶんがま)】

 この時期、茶家では厄払いや福を願い、節分にふさわしい道具の取り合わせを考えます。たとえば茶碗は鬼萩、釜は鬼面鐶付(きめんかんつき)のあるもの、水指は信楽鬼桶(しがらきおにおけみずさし)、香合は七福神、茶菓に干菓子のお福落雁など、行事風物を取り入れて趣向を凝らし客を楽しませてくれます。
 節分が終われば、いよいよ春はもうすぐそこです。

全てのお便りの一覧へ
このお便りの先頭へ

このお稽古にしおりをつけました。
しおりのページでまとめて見れます。

残りのしおり数を増やすには?